ビデオでフォームチェックしても運動技術が伸びない理由

スポーツ選手のパフォーマンス向上のために、自分の姿勢や動作を分析するのは大切です。近年は電子機器が発達し、自分のフォームを撮影して動画解析できるようになりました。

スポーツ科学で動きを研究する大学では、スポーツ動作の姿勢を分析し、体の一部分が理想の位置よりずれている値や角度など、細かい箇所まで確認していきます。

こうした分析から、自分のパフォーマンス向上の鍵につなげることは科学のもたらした進歩でしょう。

しかし、動画を用いて姿勢を分析することは間違えるとかえって実力低下を招く恐れがあります。ここでは武道の話を交えて、スポーツ選手が注意していただきたいフォームの研究方法について解説していきます。

目に見える理想のポジションと体の中の適した状態は必ずしも一致しない

弓道の世界では、自分の射形を見てもらったり動画を撮ったりして引いてる姿勢を研究することができます。

動画で自分の悪いところを「目」で確認します。そして、改善しなければいけない点を明らかにすることができます。

例えば、弓道をする人は弓を引くときに右肩が上がっていたら、理想の位置に収めるためには右肩を下げるように頑張ります。背骨が曲がっていたら、背骨を真っ直ぐに立てようと意識します。

しかし、そのような思考で改善を行うと、弓道の実力が下がります。今度は左肩が詰まったり、別の部位に変な力みが入って、的に当たらなくなります。的に当たらないのならまだいいですが、悪い癖がとれなくなります。

胸が前方に出たり、狙い目をつける前に弓を離すなど心理的な焦りが出たりするようになります。すると、悪い癖が悪い習慣に代わります。

いくら見た目が「キレイな姿勢」であっても、「体の中の筋肉の状態」が良いとは限りません。自分の動作に何らかの欠点や改善点を見出すと、人はその部分に直接的に意識をおいて動作を修正しようとします。

しかし、そうした一部分の意識は体全体を使った動作を阻害し、体の中にある筋肉へ違和感を与えます。

スポーツにおいて、理想の動きは無数にある

例えば、野球のピッチングでリリースの手の位置が低いと気がついたとします。

リリースのときに手を上げようという意識を持つと、今度は手の位置が高くなりすぎてしまいます。また、他の部分に新たな問題が出てくることもあります。

「手首の力みを取りなさい」と指導されて手首の力を抜こうとして、ボールを投げようとします。

すると、その意識が強すぎるばかりに、いざ腕を動かそうとしたときに必要以上に肩と肘に力が入ってしまう場合があります。

この場合、投げる動作は

「どのような軌道で腕を振れば、結果的に手首の無駄な力みが消えるのか」
「手首に力が入るのなら、腕の力みを取りたい、そのためには背中の筋肉の無駄な力みを消せばよいのか」

このように、安易に手首の力だけを抜くのではなく、身体の別の部分を観察して、違う方向から「手首を抜く」アプローチをしなければいけません

スポーツでの「動き」は体の中の状態と切り離すことができません。野球のピッチング動作の場合、どれだけ見た目キレイな動作やフォームであっても、無理やり筋肉を力ませておこなっているのであれば、最後のリリース動作で筋肉の力みが表に出てしまいます。

その結果、拳がぶれてしまい、制球力やスタミナの低下を招きます。

自分の姿勢と脳機能を改善することに目を向ける

それでは、「見た目の悪い部分」を具体的に変えるにはどのようにすれば良いでしょうか。

それは、「自分の姿勢」「脳の状態」を徹底的に改善することに目を向けます。

今、あなたはキレイな姿勢を保っていますか?キレイな姿勢ができている場合、首の後ろが伸び、両肩の力みが消えて、足裏に体重がべたりとついた状態になっています。

さらに、そのときの筋肉の力みはどうでしょう?キレイに姿勢ができていれば、「体の後ろ側の筋肉が締まり、前側の筋肉がリラックスした状態」になります。

すると、脳からの運動の指令がきちんと神経を通じ、筋肉に届き頭でイメージした動きをうまく筋肉を活用して動けるはずです。

このように、自分の姿勢ができていれば、本の教えや悪い部分は比較的早く改善できるはずです。

先ほどの野球の話に戻ります。リリースポイントが低いと感じて腕を上げようと意識したとします。確かに上がったけど、数日練習積み重ねたら腕が緊張したり、体がなんかだるい気持ちになったとします。

そうしたら、そのような意識をするのはやめましょう。別の意識に変えてください。それに加えて、ピッチング中の姿勢を変えるようにしてください。

腕に力を入れない

頸の後ろを伸ばす

足裏の重心が定まっているか確認する

さらに、姿勢ができていなければ、「お尻の筋肉を鍛える」「首回りの筋肉をゆるめ、首周辺がすっきりした感覚を脳に覚えこませる」「腰回りの筋肉(腰方形筋)をゆるめる。胴体の筋肉を柔軟に動かせるようにする」

このようなことをしてください。今までより無駄な力みなくピッチング動作ができるようになります。

そうして、リリースで力が入っている原因が

→①腕の振り方を変えれば改善できる

→②そのためには、投げる手前で手首の力を抜けばいい

→③、②を行うためには、振りかぶった際に肩の力が抜けている必要がある」

→④振りかぶった際に肩に負担をなくすには、振りかぶったフォームを
 不自然なく行うようにする

→⑤振りかぶったときは、どちらかの足を上げるため、足を上げる動作で
 力まなければいい

→⑥そのためには、できるだけ胴体の筋肉をゆるめ、脚の筋肉ではなく、
 脇腹や太ももの付け根を使ってあげるようにする

→⑦そのためには、「腰方形筋」をゆるめるべき

→⑧なんどもその動作を覚えるには、首の後ろを伸ばして、姿勢を安定化させる

このように考えていけばよいのです。すると、自分の動かしたい筋肉を確実に意識して動かすことができます。理想の動きが再現しやすくなるのです。

脳機能と姿勢を変えることで、トライアスロンでランニングの部8位入賞に

ちなみに、私はこの思考により、トライアスロンのミドルの部で大幅に記録を伸ばしました。

スイム(2km):1時間1分→53分

バイク(70km):2時間54分→2時間37分

ランニング(20km):2時間14分→1時間28分(全体で8位入賞)

【2017年5月と10月に出場したトライアスロンの大会を比較】

同様の思考で、他のスポーツ関係者に身体の使い方を教え、野球、トライアスロン関係者、複数の方からパフォーマンス向上の報告をいただいています。それ以外に、この思考で腰痛や肩こりの治療にも手掛けており、多くの方がその場で痛みの改善の声をいただいています。

今後スポーツに必要となるのは、「いかに表に出た動作やフォームだけを見るのではなく、自分の基礎体力や運動神経」を高めるかですそのためには、全身運動を行いやすい姿勢と胴体を身に着ける必要があり、体幹部を複雑に動かすための「腰方形筋」と頭部の安定に寄与する「後頭筋(頸の後ろの筋肉)」の活用が必要となります。

室伏広治が36歳で金メダルに返り咲いた理由

男子ハンマー投げで室伏選手は2004年に金メダルを獲得後、2011年に世界選手権で再度メダルを獲得しました。室伏選手が年齢が重ねてもなお、パフォーマンスを維持できた理由として、脳機能に目を向けて、トレーニング方法を変えた」ことが挙げられます。

室伏選手は80mの「壁」の手前でどうしても抜けられないスランプに陥りました。彼は自分のフォームを繰り返しビデオで確認し、
どうすればよいのかを分析・研究しました。

しかし、彼の結論は「ビデオ観察」をやめることでした。これは、ビデオに映った自分のフォームを繰り返し見ているうちにいつの間にか目で見た形にとらわれて、練習で獲得した彼独自の運動感覚を崩していることに気づいたからです。

そこで、室伏選手は運動感覚を高める方法として、「不安定な状態でトレーニングを行う」ことを考えました。例えば、片足たちでバーベル上げをしたり、バーベルにハンマーをつるして、揺らしながら、立ったりひねったりします。

このように、上半身を固定しながら、不安定なポジションにあえて設定して、体幹部を動かすトレーニングは当時、「独特」「個性的」と解釈されてきました。

しかし、今は、このようなトレーニングの重要性を認識し、別のスポーツ関係者が室伏選手に教えを受ける事例があるそうです。

室伏選手は自分の動作について「内から見る」と表現しています。動作を外から見るのではなく中で見る訓練をしているうちに記録が向上したと説明しています。

外から見てもわからない部分があります。

例え、目の前にあるコップを取り出す動作にしても、それが「腕の筋肉を伸ばしてコップをとった」のか「背骨を前傾させて、コップ体を近づけながらとった」のかで2通りのコップの取り方があります。

コップの取り方は解釈次第で何通りもできるのです。

しかし、そのコップの取り方を細かく「内から見る」のをやめて、外からの形だけで判断すると、効率の良い身体の動かし方を認識できなくなります。すると、いつの間にかコップを取る動作が気づかない間に「肩の関節同士の骨を無駄にすり減らしていた」動作になっているかもしれません。

これが「怪我」につながります。

このように、無駄な動作、フォームを改善するためには、「姿勢」「胴体の動き」「身体の使い方」を変えて、内なる見方、あらたな身体の意識を持つ必要があります。

それを、ビデオで観察して、「あ、肩が上がっているから肩関節だけ下げよう」と機械的に動かしても意味がないのです。

外から見たことによって、体の中の状態が悪くなることは大いにあります。自分の体にある体の中の状態に目を向けて、見た目に囚われずフォームや動きを研究しましょう。

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