股関節の動きを変える「割り」動作
あらゆるスポーツで、「股関節の動き」を学ぶのは大切です。股関節の働きを理解し、実践していくと、脚を動かす動作を力みなく、効率よく行えるようになるからです。股関節の動きが悪くなると、脚が動かしにくくなり、走る競技や脚を使うスポーツ全体に悪影響が出ます。 スポーツの実力を向上させるには、「末端部の筋肉を使わず、なるべく胴体部の筋肉を活用できるように」する必要があります。そのためには、股関節の動きを学ぶ必要があるのです。
そして、武道の世界では、股関節の動きを変えるための 体の使い方である「割り動作」が存在します。
股関節の「割り」動作とは
股関節を動かすとなると、あなたはどのようなものを思い浮かべるでしょうか? 例えば、背中を丸めたり、反らせたりしましょう。あるいは、腰を左右にねじってみましょう。すると、太ももが内側にねじれ、股関節が左右に動きます。
股関節は骨盤の動きと連動して動きます。骨盤が前に傾くと、太ももの付け根は内側に内旋しやすくなり、後ろに傾くと、外に外旋しやすくなります。このように、股関節は骨盤を動かすことで、結果的に動きます。
そして、スポーツ選手が身につけたい股関節の動きとして「割り動作」があります。「割り」とは、股関節の左、右を分割したように動かす動作です(本当に分割するわけではありません)。中腰で膝を動かすとこの動きを実現できます。
背筋を伸ばして、軽く膝を曲げて中腰になってください。次に、中腰の姿勢のまま、右膝と右の腰骨と同時に正面から見て右斜め前の方向に動かしてください。すると、上半身の右側だけが前方に出る動きが実現します。 右ひざと右の腰骨を同時に前に出すように太ももを動かします。すると、右肩も一緒に動き、体の右側全体が連動して動きます。 上半身の右側のみが動くようになれば、股関節の割り動作ができているといえます。つまり、上半身の右側と左側を別々に動かすように動作を行います。
この動作の起源は武道にあります。例えば、弓道の世界では、「歩く動作」の際になるべく姿勢が崩れないように歩き動作を行わなければいけません。その際に、右足を出すときに「右腰と右ひざを同時に出すように歩く」ように意識します。これによって、片足が地面から浮き、少し片足が上がった状態であっても上体全体がぶれずに脚を動かすことができるのです。
さらに、合気道の世界では「体裁き(たいさばき)」という動きがあります。これは身体の重心を左右のいずれかに方向に移動する動作であり、半身の状態で体を動かします。その際に、「体の右側・左側」と別々にするように動かすのです。
このように、武道の世界では、股関節を左右に分離させて、動かす身体の使い方があります。この動きは、脚を使うスポーツに全て応用できます。
股関節の割り動作がスポーツに有効な理由
スポーツの世界では、「腰をひねる」「腰を反らせる」動作が多いことがわかります。例えば、野球のスイング・ピッチング動作、ランニング・バスケのジャンプ・サッカーの蹴り動作などです。このような「ひねる動き」は瞬間的にパワーを引き出すのに大切です。
ただ、スポーツには、それ以外に大切な動作があります。それが「素早く・かつスムーズに左右の重心を切り替える動作」です。
バスケやサッカーでディフェンスを抜き去るとき、または素早く目的場所にパスを送るときは、「ひねる動作」より、瞬間的に早く動作を行わなければいけません。この場合、「蹴る力を極力使わずに」いきなりトップスピードに乗って体を動かさなければいけません。
なぜなら、いずれかの脚を蹴り、体をひねり、左右に動いたとしても、動作が遅くなったり、上体がぶれたりするからです。このように体がぶれてしまうと、相手か次の動作を予測されやすくなってしまいます。すると、サッカーやバスケで相手を抜き去る動作がうまくいかなくなってしまうのです。
そのために、できるだけ「身体のひねりが少なく」かつ「すぐに動き出せる」体の使い方が必要となります。そこで、「股関節の割り動作」を活用します。
具体的には以下のように使います。
【一対一でディフェンスを抜くとき】
- 首の後ろ側を伸ばし、両肩を落として、左右の足に体重を均一に乗せる、中腰にし、膝を曲げておく
- 必ず上体の姿勢を左右に崩さないようにする、そして、右に動きたい場合、左足を蹴らないようにし「右ひざの力を抜く」ようにする
- 体の右側の支えがなくなり、体の右側が倒れるように動く、このときに上体の姿勢は地面と垂直で崩れないように維持する。そのまま、右側へ上体を動かす
- 浮かせた右足がまた地面についてしまう。しかし、ついたら再度膝を浮かせるようにする。すると、体にブレーキがかからないまま、右側に動き続けることができる。
- 「①」~「④」を続けることで、「蹴らないで瞬間的に早く重心移動」が行えるようになる。相手にも動きが見破られにくくなる
このように、「蹴る」動作をなくし、片膝をゆるめ、緩めた方向に身体を動かすようにします。すると、上半身が瞬時に横方向に動き、相手に動き出しがわかりにくくなります。それによって、ディフェンスを抜き去ることが可能となるのです。
この動作はディフェンスがオフェンスを抑え込むときにも有効です。つまり、相手が「左→右」と素早い体の切り替えしをされたときに、脚で蹴らないようにします。むしろ、左→右と片膝を緩めれば、上体が崩れることなく、左右に動けます。すると、オフェンスの速い動きに対して対応ができるのです。
実際に、私はフットサルやサッカーでこの手法を用いて、競技経験者のオフェンスを抑えこむことに成功しています。さらに、ディフェンスについては、バスケの講習会で同じことを実演させたところ、早い左右のドライブが身に付いたと報告をいただいた生徒もいました。
本気で「股関節の割り」で「身体の重心を素早く左右に切り替えれば、あらゆるスポーツに応用できます。股関節の割り動作の動きを身に着け、スポーツ上達につなげましょう。