少し「膝」を曲げると、さまざまなスポーツを力みなく行える

少し「膝」を曲げると、さまざまなスポーツを力みなく行える

スポーツ技術を高めるためには、できるだけ身体の力みはなくしておく必要があります。そして、スポーツ動作を無駄な力みなく行うためには、できるだけ力みが出ないように姿勢や身体の使い方に気を遣わなければいけません。その中で「膝の筋肉の緩み」は動作における重要な意味をもっています。

私たちは普段の生活では、膝を曲げ伸ばしして、無理なく柔軟に使っています。しかし、スポーツの動作中、合理に合わない筋肉の働かせ方をしてしまうと、「膝関節」が柔軟に動きにくくなります。すると、スポーツ動作を無駄な力みなく行えなくなります。

そのため、無駄な力みなく、動作を行うためには、武道の世界で知られる「少し膝を曲げる」重要性について解説していきます。

膝を少し曲げると、全身の力みをとれる

膝を少し曲げる重要性を理解する前に、まずは「関節は少しだけ曲げておくと都合が良い」ことを「線を引く動作」に例えて解説します。

例えば、肩・肘・手首の三部位をまっすぐに伸ばした状態で黒板のチョークを握っているとします。黒板に直線をかくとすると、書きにくく、短い線しか書けないことは誰でもわかります。腕が伸びきった状態では黒板とチョークが当たる面が少なく、力をうまく筋肉を働かせることができないからです。

そこで、肘を少し曲げておくと書きやすく、長い線を書くことができます。なぜなら、肘が曲がっているからです。肘が曲がっているので余計な力みがなくなります。さらに、肘を直線に伸ばせる余力もあります。

これと同じことが脚でも言えます。脚を動かしたり、立たせたりするときは膝が伸びきっている状態ではなく、少し屈んでいる状態の方が運動に適しています。少しだけ屈んでいると、着地衝撃がかかった際に膝を伸ばせる余力が残っているからです。つまり、膝関節を少しだけ曲げていると、歩いているときや体を動かしている最中、膝関節周りの筋肉が前後左右に柔軟に動くようになります。

これが、膝を曲げすぎていたり、伸び切っていたりすると、動作中に膝が柔軟に動かなくなってしまいます。

そこで、膝が軽く曲がった姿勢の構築法を解説します。

一度、体を腰から前に軽く倒してください。そこから、少しずつ体を真っすぐに伸ばすように立てていきます。そうしていくと、上半身の体重が腰に乗り、背骨がまっすぐに伸びます。そのときに、「脚の筋肉をピンと張る」のをやめて、少しお尻を締めるようにしてください。すると、自然と膝が伸び、結果として膝関節がほんの少し曲がった姿勢になります。

このように、脚筋をピンと張らず、余裕を残した状態にして立った状態が「膝が少しだけ曲がった姿勢」です。この姿勢は他に、「骨盤を垂直に立てやすい」「上体の筋肉に力みがかかりにくい」といったメリットがあります。

あるいは、弓道の「胴づくり」からも構築できます。まず、首の後ろを伸ばして、両肩を落としてください。足裏の体重を全体に均一に伸ばしたら、少しお尻を締めて、膝関節を外に開くようにします。そして、少しだけ膝を曲げるようにすると、「軽く膝を曲げた」姿勢が完成します。

太ももの裏側の筋肉を触っていると、膝をピンと伸ばしているときと比べてゆるんでいるのがわかります。このように、膝を少しだけ曲げると、無駄な力みがなくなるため、上半身の筋肉もリラックスした状態で立つことができます。

電車を使って通勤している人の場合、長時間立っていて疲れてしまうときがあります。そのようなときは、足裏全体に体重を乗せるようにし、膝を少しだけ曲げておきましょう。足裏の重心はつま先や踵に寄りすぎず、あくまで中央に乗せるようにします。すると、脚が楽になって立っていても疲れにくくなります。

スポーツの世界でも重要な膝が軽く曲がった姿勢

さらに、この姿勢はあらゆるスポーツにおいても、有効性が確認されています。

野球では、少し膝を曲げて「骨盤を立てる」

例えば、野球の世界では、最初の構えでつま先や踵に体重が乗らないように、足裏全体に乗せるようにします。そして、軽く膝を曲げて、骨盤を立てるようにします。そして、軽く膝を曲げておくと、骨盤がほぼ垂直のまま、スイング動作に移ることができます。このように、骨盤を立てた状態で投手側へ重心移動を行うと、上体に無駄な力みなく、スイング動作を開始できます。

通算本塁打数が多い打者ほど、膝を軽く曲げ、骨盤を垂直に立ったフォームであることがよくわかります。その理由は、スイングは、「背骨を軸にした回転運動」を阻害しないように行うのが大切だからです。

スイング動作を物理的に見ると、腕、バットという物体が背骨を軸に回転する運動と解釈できます。この際の回転運動の力を「慣性モーメント」ともいいます。野球において、スイングスピードを早くするためには、いかに回転運動を阻害させないように動作するかにかかっています。そのため、骨盤をなるべく垂直に立てる必要があります。

もし、膝を曲げすぎてしまうと、骨盤が前に傾いてしまい、背骨がまっすぐに立ちません。すると、背骨が不用意に曲がってしまうために、回転運動に悪影響が出ます。すると、スイング動作を力みなく行うことができません。

野球の世界で、重心を下げてスイングを行うのには別のメリットもあります。しかし、膝を曲げすぎてしまい、下半身が力んでしまうと、スイングする際に使う筋肉やスイング軌道に悪影響が出てしまい、スイングスピードが加速しない、バットがボールにうまく当たらないといった事態が起こります。

近年は、スポーツ科学を元に、股関節や体幹部をねじることが重要視されています。しかし、姿勢や筋肉の観点から話すと、こうした体幹部のねじれの動作はあくまで「全身の筋肉で無駄な力みがとれている」「背骨がほぼ垂直に立っている」という前提が必要です。そうでなければ、骨盤が垂直に立たず、背骨がどこかねじれた状態で体幹部をねじるスイングを行うと、動作がうまく行われない可能性があります。

ランニングは少し膝を曲げて着地すると着地衝撃が軽くなる

他に、ランニングの世界でも同様に、「膝を軽く曲げる」重要性があります。ある研究では、少し膝を曲げた状態で着地をすると、着地衝撃が膝ではなく、お尻周りの筋肉(大殿筋)にかかるといわれています。そのほかに、着地の際に、膝を軽く曲げると、膝自体がクッションのように働くため、足にかかる負担が少なくなります。これらの効果によって、ランニングにおける脚への負担が分散されます。

マラソンのトップランナーの世界では、2種類の走り方を持ち、試合で実践しています。その中の一つに、脚の筋肉に無駄な負荷をかけない走り方があります。できるだけ膝を軽く曲げるようにし、脚にかかる負担を軽減して走るようにします。

少しだけ膝を軽く曲げると、脚の負担が軽減されるだけでなく、上半身の肩から胸にかけての力みも少なくなります。それによって、フルマラソンで、少ない力で速いスピードを維持することができます。

もし、骨盤を前傾させたり、上体を前に倒そうと意識したりして走ろうとすると、着地衝撃が太もも裏側にかかりすぎてしまいます。しかし、骨盤の前傾が少なくなると、膝がほんの少し曲がった姿勢になり、衝撃がお尻、背中当たりにかかるようになります。これによって、太ももやふくらはぎの負担が少なくなるため、長時間疲れずに走り続けることができます。

ダンサー、バレエの人は膝関節のゆるみが大切

ダンス、バレェといった動きでは、肩や腕を動かすことが多いです。

この場合であっても、少し膝関節を曲げることは大切です。膝関節をゆるめて、脚の裏側の筋肉の強い張りがなくなり、肩の筋肉の力みがとれます。この無駄な緊張を取っておくと、次の動作で腕が動かしやすくなるのです。

例えば、バレェの世界では、膝の曲げ伸ばしと同時に腕を上に上げる動作を行います。私がこれまで教えてきたスポーツ経験者の中で、バレェ経験者がおり、「どうしても腕に力が入ってしまう」という悩みをもっていました。バレェの動きを行うとわかりますが、腕を上げる際に、胸が同時に張ってしまい、肩や腕に力みが出てしまうのです。

そこで、私は両肩の力みを取るのを意識しただけでは、動作は改善できないと考えました。そこで、両肩の力を抜くために、膝の筋肉を軽くゆるませるように指導しました。実際に行うとわかりますが、膝の力みを取ると、両肩が力みにくくなります。弓道に限らず、武道全般の動きでは、膝関節周りの筋肉を硬くしすぎないように気をつけます。

そうして、腕を上げるときは、「腕や肩には何も力を入れないで下さい。それよりも膝を意識してください」と伝えます。膝が伸びることで、上半身が伸び、その勢いを利用して腕を上に放り投げるように意識させたのです。これによって、胸を張った姿勢であっても肩に負担なく腕を上げるようにできます。

この放り投げる感覚は他の場面でも有効です。例えば、空手の突きやボクシングのパンチなどです。普通、パンチ動作は肩甲骨や背中の筋肉を意識して、パンチ動作を行います。そこで、少し膝を曲げます。次に、膝に曲げた状態から膝を伸ばして上半身を伸ばします。その勢いを用いて腕を前方に放り投げるようにパンチを出します。すると、少ない力で威力のあるパンチをつく事ができるのです。

このように、少し膝を曲げておくと、次に伸ばす力によって、腕を動かすことができます。それによって、「腕を上にあげる」「パンチをする」といった動作につなげることができます。

膝を少しだけ曲げたときの注意点

ただ、ほんの少し曲げた状態にしても、立っている最中に膝に負担がかかることがあります。それは、目線が下がったときです。人は、目線の上がり下がりによって、力む筋肉があるのがわかっており、目線が下がりすぎると、腹部の筋肉が固くなるのがわかっています。必要以上に目線が下がってしまうと、全体の姿勢の崩れにつながります。膝を少し曲げた姿勢は骨盤が垂直に立てやすい反面、骨盤、胸部、首、頭部、どれかが傾くと動き全体に大きく影響が受けやすいといえます。

あるいは膝が曲がりすぎてもいけません。膝が曲がりすぎると、踏ん張った状態と似た背筋や太もも裏側の筋肉が張った姿勢になり、膝関節が柔軟に動きません。立位の姿勢においては、曲げすぎず伸びすぎずの「少し曲げた状態」を体で覚え、最後まで形を崩さないように意識することが大切です。

立った姿勢は、外形はピンと伸びているより、曲がっていた方が動かしやすくなります。着地衝撃のときに、膝関節が柔軟に動き、負荷が分散されるからです。それによって、動作中に体を円滑に動かすことができます。

スポーツの動作で「軽く膝を曲げた」姿勢は有効となります。立っている姿勢のみならず、歩いている状態やあらゆる動作に応用するようにしてください。

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