スポーツの世界にはない、動きの気配の消し方
武道の世界では、相手に動きを悟られないように動く考え方や身体使いが存在します。相手への間合いへ入るとき、技をかけるとき、できるだけ相手に技をかける「気配」を悟られないようにすれば、結果として技が決まりやすくなります。
剣道で、相手の間合いに入るとき、柔道で技を決めるとき、相手より0コンマ何秒動き出しが早ければ、技が決まりやすくなります。このように、瞬間的にかつ相手に気配がわからないような動きは、スポーツの動作であっても有効です。
例えば、サッカー・バスケの世界では、ディフェンス、オフェンスを行うときに、「動きの気配」を消す動作は有効です。動き出しの気配を相手に気づかれにくくするためには、いくつか方法があります。
これらの内容を学ぶと、スポーツにおける「動きの気配の消す」動作が行えるようになり、スポーツ技術向上につながります。以下にその詳細を解説していきます。
コイン取りからわかる「気配の消し方」
相手に初めの初動を気づかれないように動くための原理として「胸、肩が必要以上に動かない」ことが挙げられます。
例えば、「コインとり」の実験を行います。コイン取りの実験は、最初に二人一組のペアを作ります。そして、一方を片手にコインを持ち、もう片方はそのコインを取るために腕を差し出します。
そして、コインを取る側はコインをとるようにし、コインを持っている側そのコインを取られないように守ります。一見、「コインをとる側」が不利のように思いますが、あることを行うと、簡単にとれるようになります。
- コインを腕の筋肉を使ってとろうとする→相手に気配が見破られ、なかなかとれない
2,腕の裏側の筋肉を意識し、腕の裏側を伸ばそうとして、取りにいく→コインをとりやすくなる
いかがでしょうか。おそらく「2」の動作を行うことで、たやすく相手の動きをとることができたと思います。この理由として、「2」の動作を行うと、「肩と胸の筋肉が動きにくくなる」からです。
肩、胸が動きにくいと気配が読まれにくい
人は相手の動きが「今動こうとする」「動き出した!!」と気配を感じるのは、眼球ではなく、耳周りにあるセンサーが働きます。動き出す瞬間、かすかに肩関節や胸関節が動き、相手はその初動を敏感に感じ取り、守りの動作をします。
このときに、相手の微妙な動きや機微を感じ取る部位は、耳の後ろにある「脳幹」です。この部位は、周りの細かい動きや変化を感じる器官です。
そして、動き出しが行われる際に、肩と胸の動きが少ないほど、相手は最初の初動が感じ取りにくくなります。すると、守りに入るタイミングが遅くなります。もし、あなたが肩と胸の動きが少なければ少ないほど、相手はあなたの動きを「気配が消えた」ように錯覚します。
人は外からの情報を脳によって感知できます。その中に、動く手前に「少しだけ肩が動いた」「相手の胸の動きに変化があった」という情報を見た目からなんとなく感じ取ります。
しかし、こういった小さい動きが少なくなると、相手から
最初の動きだしがわかりにくくなります。そのため、守りに入るタイミングが遅くなります。
このような「気配がわかりにくい」動きは、サッカーやバスケに応用できます。サッカーやバスケにおいて、ディフェンスを抜くために、「肩・胸・腕の動き」が少なくします。すると、ディフェンスを抜き去りやすくなるのです。
サッカーで動き出しの「気配」を消すには
サッカー選手がディフェンスを抜く際に、最初の初動を減らし、急に速く動く方法として、「急に止まる」ことが挙げられます。
これは、ディフェンスを抜く際に、抜く手前で脚を蹴る力をほぼゼロにして、急に止まります。そのときの「上体が前に倒れる」力を使い、動くようにします。すると、ディフェンスを抜きやすくなります。
手順:急に止まって急加速する方法
1ディフェンスの前に立つ
2少しだけ加速をつける
3前足が地面についたときに足首、膝、太股に力を入れず、地面を蹴らないようにする
4下半身の動きが止まることによって、体が前に倒れるように動く
5体が前に倒れかけたら後ろ脚でかかとから脚を踏む
6急発進したように加速する
7ディフェンスからは「肩・胸」が動いていないので、いつ加速が出始めたかがわかりにくい
8ディフエンスを抜き去ることができる
このような動きを行うと、相手に「前に進む気配」を読まれにくくなります。すると、次の一歩を踏むことができます。
ここで重要なのは、前足が着地するときにつま先でブレーキをかけないことです。つま先に力が入ると、肩と胸関節に力みが出てしまいます。この力みによって相手から動き出しを読まれてしまうのです。
そのため、前足が着地したら、つま先を踏まないようにします。もちろん姿勢も大切であり、首を伸ばして両肩を落とすようにしてください。この姿勢でつま先に力をこめないように地面をつけると、上体が自然と前に倒れるように動きます。すると、急に止まったとしても、「肩・胸に力みがない」「前に進むための力が体にかかっている」状態になるため、上半身の上部がほぼぶれずに、次の一歩を早く出せます。すると、相手に動き出しが読まれにくいのです。
脚を止めた瞬間に下腹周辺に力がこもり、上体が前につんのめるように倒れる感覚を得ることができます。この力がこもった瞬間に腰から左右に動くと脚でけったときよりも速く相手に気配の読まれにくい動きができます。これらの動作は卓球のスマッシュやバスケでのドリブル、陸上のスタートダッシュといった瞬間的に決まる動作に応用ができます。
最初の動き出しで「肩・胸・腕」関節の動きが少ないほど相手に動き出しが読まれにくくなります。
まず、弓道で実践される姿勢によって、「肩・胸がぶれない」ようにします。次に、体を前方に進め、前足が着地したら、蹴るのではなく、「前に進む気持ち」をなくすようにすればよいです。このときに生まれた「上体が前にでる力」によって体を動かすことで、相手に読まれにくい動作を実践できるのです。