疲労の取り方は1種類ではない
やみくもに筋トレを行っていると、疲労が蓄積し、怪我をする可能性があります。スポーツをしているときに、身体が疲れやすいのは、「筋肉が疲労し、凝っている」からと説明されます。 ただ、現代において筋肉の疲労が生じる原因は複数あります。身体の仕組みを細かく調べていくと、疲労の原因となりうるものは筋肉以外にもあります。あらゆる角度から、身体が疲れる原因を一つでも多く理解し、複数のアプローチをかけるようにしましょう。
では、スポーツにおける疲労の原因はどのようなものがあるでしょうか?以下にその詳細を解説していきます。
カリウムの増加が筋肉の活動に影響を与える
疲れと言うと、多くの人は「乳酸」を思い浮かべるかもしれません。実際に、乳酸が疲労物質であることを証明するために、様々な研究がされていました。しかし、最近の研究によって、筋肉が疲れて、収縮しづらくなる原因は「カリウム」であるとわかりました。 乳酸は激しい運動を行うと、血中に増えることがわかっています。ただ、乳酸は運動が続いている間、生体内にある「コリ回路」と呼ばれる反応プロセスを経て、糖質(グルコース)に転換されます。したがって、乳酸自体は疲労物質と扱いにくいです。
ただ、乳酸と同時に、カリウムやリン酸が体内で増加します。この二つの物質が筋肉の収縮に影響を与えることはわかっています。
筋肉には、「カルシウムイオン」と「カリウムイオン」の二種類のイオンが存在します。カルシウムイオンは筋肉の収縮反応に関わり、カリウムイオンは弛緩反応に関わります。 二種類のミネラルバランスによって、筋肉の収縮運動を調節しています。どちらか一方のイオンが欠乏すれば、筋肉が伸び縮みしづらくなります。例えば、カリウムやリン酸が増えると、カルシウムイオンによる筋肉の収縮運動をコントロールしづらくなります。 こうした反応によって筋肉が伸び縮みしづらくなり、結果として体が動きにくくなってしまいます。つまり、運動によってカリウムイオンが増えすぎると、筋肉の収縮反応が上手く起こらなくなります。その結果、筋疲労が生じてしまうのです。 一方、カリウムが減少すると、カルシウム濃度が高くなり、 筋肉が収縮しやすくなります。これによってこむらがえりが起こりやすくなります。また、心臓では不整脈が起こり、 腸では蠕動運動(ぜんどううんどう)が弱くなって便秘になりやすくなります。 このように、筋肉はカリウムイオン、カルシウムイオンの濃度のバランスによって、うまく収縮がなされています。
一つの疲労の原因として、
・運動することで、乳酸の濃度が増加する
・乳酸の増加に伴って、カリウムイオンの濃度が大きくなる
・カリウムイオンの濃度増加により、筋肉の収縮活動を調節しづらくなり、体が動きにくくなることが挙げられます。
カリウムによる筋疲労の対処法
このように、カリウムによって筋疲労を起こした場合は、血流低下を改善するようにしましょう。 例えば、痛みと関係する物質として「ブラギニン」「ヒスタミン」などがあります。これらの物質が一部分に集まりすぎると、「血流が低下している場所」と合図を送るために痛みが発生します。特定の物質が集まると、血流低下を知らせるために、炎症や疲労感が出ます。同様に、カリウムも血流低下を改善することで、筋疲労を軽減することができます。 では、具体的に筋疲労を解消する具体的ステップを解説していきます。
・ストレッチを行う ・指圧を行う ・お風呂に入る ・水分補給を積極的に行う ストレッチを行うことで、筋肉が伸ばされます。これによって、全身の血管に圧力がかかり、血流速度が向上します(注意:フルマラソンのように、激しい運動を長時間続けられた後は、ストレッチではなく、冷やす(アイシング)を行うようにし、一日置いてからストレッチをするようにしましょう)。 同様の理屈で、指圧によって血管に圧がかかり、血流が改善されます。お風呂を入り、体温を上昇させ、水分補給によって血流を改善することも有効といえます。
活性酸素の発生によって、身体全体が「しんどい」と感じる
もう一つの筋肉の疲労の仕方として、体内で発生した「活性酸素」によって疲労します。活性酸素は運動中に様々な要因で発生します。
例えば、「呼吸運動」「体内の水分の酸化」「血管内に流れる過程で血液と血管壁で起こりうる摩擦」など、全部で8種類あるのが確認されています。活性酸素の発生によって、身体全体が疲労につつまれてしまうこともわかっています。
その理由として、活性酸素によって、脳内に「FF(ファティーグファクター)が蓄積されるからです。FFとは、疲労たんぱく質と呼ばれるもので、活性酸素の発生によって蓄積されることがわかっています。FFが脳内に蓄積されると、脳が「しんどい」と感じ、身体に疲労感を感じます。
注意しなければいけないのは、FFは頑張りすぎる人に蓄積されやすいことがわかっています。
例えば、身体が疲労感に包まれていたときに、誰かに褒められたり、励まされたりします。すると、その影響によって、FFによって起こる疲労感を一時的に忘れられるように、脳内に疲労感を麻痺させる反応が起こることがわかっています。このように、疲労がたまっているのに、「疲労感」をなくす反応を「疲労のマスキング」とも表現されます。
疲労たんぱく質が脳内にたまると、臓器、筋肉の活動を担う「自律神経系」の働きが乱れます。すると、生命活動に悪影響が出てしまい、疲労がたまってしまうのです。
疲労たんぱく質を減らすには
疲労たんぱく質を減らすためには、ストレッチやお風呂といった手法ではなく、違った方法で疲労改善する必要があります。
・睡眠をとる
・FR(ファティーグリカバリー)物質を摂取する
・FFを増やす食べ物をなるべく摂取しない
「日本疲労学会」の研究により、「睡眠」がFFを減らす方法としてわかっています。もし、平日は仕事漬けで休む暇がなければ、土日は計画的に寝坊をするようにし、睡眠時間を確保するようにしましょう。
次に、「FR」とはFFを減らす食べ物であり、代表的なものに「イミダゾールペプチド」があります。イミダゾールペプチドとは、アミノ酸に含まれる「ヒスチジン」「βアラニン」が複合した物質であり、鳥の胸に多く含まれていることがわかっています。
人は脳と筋肉細胞に、イミダゾールペプチドを合成する酵素が豊富に存在しています。そのため、酸素消費が多く発生する部位で、イミダゾールペプチドが再合成されるため、抗疲労効果が高いといわれています。
このほかに、「アルコール」「炭水化物」は過剰に摂取すると、体内で活性酸素を生み出す元となるのがわかっています。
アルコールは、アセトアルデヒドに変換する反応の過程で活性酸素が発生します。炭水化物は血液中に入ると、血管内で活性酸素が発生することがわかっています。これらの食事もできるだけ少なくするように意識することが疲労回復の近道となりえます。
今回述べたように、筋肉の収縮には、カリウムとカルシウムのバランスによって成り立っています。2種類のイオンバランスが崩れることで筋肉が疲労することをご理解ください。 あるいは、活性酸素が体内で発生することによっても、脳や筋肉を疲労させます。どちらの影響によっても、体が「疲れた」感覚に陥るため、対策をするようにしましょう。