スポーツの世界では、スポーツ技術向上、怪我の防止に「肩甲骨」「股関節」に注目されることはよくあります。
例えば、肩が痛い場合は、肩甲骨を柔らかくしましょうと指導されることがあります。脚を怪我する場合は股関節の柔軟性が低下したことで起こると考えがちです。この他に、運動技術が向上した人の体を調べて、「肩甲骨・股関節が柔軟であると、スポーツパフォーマンス向上につながる」とも説明されることがあります。
確かに、肩甲骨と股関節をゆるめることは「運動技術向上」「怪我の防止」につながることもありません。しかし、現実世界に肩甲骨と股関節を柔軟にしたとしても、運動技術が伸びることや怪我が改善させることはありません。それどころか、せっかく肩甲骨と股関節を柔軟にしたとしても、目的の運動技術向上や痛み改善につながらず、努力が無駄になる危険があります。
なぜ、肩甲骨・股関節を柔軟にしても、運動技術が向上しない、怪我が治らないということになってしまうのでしょうか?今回は、スポーツ関係者、怪我に悩んでいる人すべてに、「常識を変える」ために、一つの見解を提示します。
体の痛みや不調は「自己免疫疾患」から起こり得る
運動技術を向上させたり、身体の痛みを改善したりするには、肩甲骨・股関節の柔軟性改善より先に行わなければいけないことがあります。それが、体で起こる「自己免疫疾患」を抑えることです。
「自己免疫疾患」とは、医学の世界で使われますが、具体的に「特定の患部に体液(栄養分の含まれる血液)が集まりすぎる現象」と理解してください。
身体が痛むとき、「筋肉が凝っている」「筋肉が硬い」といいます。しかし、この「凝っている」「硬い」とは体内で何が起こっているかご存知でしょうか?健康情報を調べると、「血流が詰まっている」「老廃物がたまっている」と説明されますが、具体的には「自己免疫疾患」により、体液が集まりすぎている状態とも解釈できます。
人がスポーツや仕事で活動をするとき、筋肉は栄養を必要とします。血液が流れ、血液中に含まれるアミノ酸や酸素が運ばれ、筋肉の細胞に運ばれていきます。この次に、エネルギーが発生し、人の体が動くことができます。
このような反応が適切に行われれば、スポーツや仕事で支障なく体を動かすことができます。しかし、スポーツや仕事においては、外界からあらゆる「ストレス」がかかります。周りの声援、その場の状況、人間関係、このように外からのストレスによって、体内に負荷がかかってしまうことがよくあります。
すると、必要以上に筋肉に栄養分が送られてしまいます。この反応が続いてしまうと、古い体液が大量に居座るようになり、液体が凝縮し、硬くなってしまいます。これが、筋肉の凝りにつながります。
あなたは、スポーツの世界でここ一番の状況に立たされたことはないでしょうか。野球の世界であれば、一打逆転の場面、サッカーであればPKの場面です。このようなときに、体は緊張反応を起こし、肩の筋肉が張ったり、力みが出てしまいます。
人はここ一番の場面では、「強いパフォーマンスをしたい」「良い仕事をしたい」と思うものです。そのためには、筋肉や内臓に大量を栄養を送り込み、エネルギーを生み出さなければいけません。この状況が常に続くと、過剰に体液が送られすぎる体質になり、必要以上に緊張したり、力が入ってしまったりします。
「私はここ一番に弱い……」「練習では思い通りに動くが、本番では力が入ってしまう」と嘆く方がいます。これは、日々の練習で過度なストレスがかかりすぎてしまい、自己免疫疾患によって内臓が疲労した結果ともいえます。つまり、普段の練習で、筋肉に栄養が行き過ぎてしまい、本番の場面で過緊張状態を自ら作ってしまうのです。
その結果、体が思うように動かせなくなったり、体に痛みが発生します。
肩甲骨、股関節を柔らかくしても体が痛む
これは、野球・サッカー・ゴルフ・バレー、すべてのスポーツに当てはまることです。野球の世界では、バッティング・ピッチング動作の向上には肩甲骨・股関節の柔軟性が大切とされてきました。しかし、重要なことは筋肉の柔軟性ではなく、「自己免疫疾患」を抑えることといえます。
理由は、筋肉が柔らかくなることと、運動技術が高くなることは別問題だからです。
肩甲骨・股関節を柔らかくしても、実際の試合や仕事において体が緊張してしまえば、筋肉は硬くなります。どれだけ体が柔らかい人であっても、試合で緊張する場面に立たされた瞬間に、ドキッと心臓が緊張した瞬間に、筋肉に過度に体液が行き過ぎます。それによって、柔らかくしていた筋肉が動かしにくくなります。これでは、運動技術向上につながりません。
あるいは、肩甲骨・股関節が柔らかくしても、普段の仕事でストレスにさらされているとどうでしょう。体内で多量の体液が行き過ぎてしまい、その結果、老廃物が溜まりやすくなります。老廃物が多量にたまると、たとえ筋肉が柔らかくても、脳から痛み物質を流すように命令が起こり、痛みが起こります。
なお、自己免疫疾患はストレッチで解消することは不可能といえます。あるいは、世の中で知られている肩甲骨や股関節周りを柔軟にする機器やジムに通ったとしても抑えることはできません。なぜなら、筋肉の柔軟性低下や筋肉で起こりますが、自己免疫疾患の原因は「脳」「副腎(ふくじん:腎臓の上部にある器官)」といった内臓器官から原因が来ているからです。
筋肉に体液が行き過ぎてしまい、老廃物が溜まりすぎる体質を変えるためには、ストレッチではなく、脳や副腎の疲労を改善しないといけません。そして、現代では脳や副腎が疲労し、慢性的な体の悩みに困っている人が多くいるのも事実です。
つまり、筋肉を柔らかくすることと、スポーツパフォーマンス向上、怪我の改善とは別ものと考えなければいけません。
肩甲骨が柔軟で肩を怪我する人
腰痛や肩こりについても、「仕事しているとときは平気だが、週末に痛くなる」という方がいます。その反対に「普段は体に痛みが出ないが、大事なときになると頭が痛くなるという方がいます。これは、
実際に、私は多くのスポーツ選手の体の状態を見させていただいた経験があります。その中で、以下のような方に出会ってきました。
・肩甲骨周りの筋肉が柔らかいが、肩の慢性痛に悩まされている人
・開脚ができ、股関節が柔らかい人であっても股関節回りの筋肉が固く、動かしずらいと悩んでいる方
このような方に、柔軟体操を見せていただくと、皆がうらやむほど柔らかいです。しかし、そのような人に限って「肩が痛い」「股関節が動きくい」とお話します。一見、筋肉が柔軟であれば、運動もしやすいと誰もが思います。しかし、現実には、肩甲骨・股関節を柔らかくしても、スポーツパフォーマンスに伸び悩む人、怪我が治せない人が多くいます。
実際に、私も股関節については、開脚運動は90度以上は開くものの、頭が床につくぐらい前に倒すことできません。つまり、多くの方と同じくらいの柔軟性しかありません。しかし、フルマラソンなど脚の負担が多くかかるスポーツを現在も続けており、3時間前半のタイムで走ることができています。
これらの体験から、「いくら肩甲骨・股関節を柔らかくしても、実際の動作に使えなければ意味がない」と判断しました。肩甲骨・股関節の柔軟性向上はパフォーマンス向上や怪我の改善にすべて使えないといいません。しかし、実際には二つの部位を柔らかくしたとしても、スポーツが劇的にうまくなったり、怪我から解放されることはないと考えてください。
緊張体質を改善するには
自己免疫疾患にかかっている状態を、私は「緊張体質」と呼んでいます。この緊張体質から解放し、どのような状況でも体を動かせる活力的な状態にしなければいけません。そのためには、今起こっている自己免疫疾患を改善し、筋肉に過度な緊張なく動かせるようにしなければいけません。
そのための具体的な方法として、二つあります。それは「首の後ろ」と「腰方筋肉」をゆるめることを意識しましょう。
首の後ろをゆるめる
緊張体質を根本的に改善するためには、背骨のずれを改善しなければいけません。人には、24個の背骨から各臓器につながる神経が張り巡らされています。もし、背骨がずれてしまうと、その周辺の神経が圧迫されて、関係する内臓が疲弊します。すると、
その中で、首の後ろの筋肉をゆるめることは大切です。首の後ろには、「脳幹」と呼ばれる生体機能の活動を統括する器官があります。もし、猫背になって頭部が前に出たり、顎が上がったりすると、脳幹につながる神経や血液が圧迫されます。すると、生命活動に大きな影響が出ます。
体の各組織に筋肉や内臓に栄養を送る合図は脳によって行われます。そして、各組織に栄養素は脳の後ろから背骨にかけて神経が生えており、この経路を通じて流されます。もし、普段の姿勢で首の後ろが圧迫されてしまうと、脳幹が圧迫されてしまい、情報伝達がうまく行われません。
脳からの指令が滞り、過剰に栄養が送られるように情報が出てしまうと、筋肉や内臓に体液が大量に流れるようになります。そのため、首の後ろの筋肉をゆるめ、血液や神経に圧迫がないこと、さらに酸素を多量に送りこむ必要があります。
首の後ろをゆるめるために行うことを以下に紹介します。
少しアゴを引き、胸鎖の上に頭部を乗せるようにしてください。これによって、必要以上に曲がった首の骨が矯正されて、血管や神経のつまりを抑えることができます。さらに両肩を意識的に落とし、肩の上部の筋肉をゆるめるようにしてください。これにより、首から鎖骨にかけて生えている筋肉がゆるみ、首の緊張を抑えることができます。
この「首を伸ばし、肩を落とす」動作を普段の生活で意識して続けるようにします。スポーツをしている方は首の後ろを伸ばす意識を動作に入れるようにしてください。仕事している方であれば、首の後ろを伸ばし、体が前にかがまないようにします。
次に首の筋肉を緩めます。4本の指で「Cの字」を作り、首の後ろに当てます。次に、首を後ろに倒して、自分の手に当てて、指圧してください。すると、首の後ろにいた気持ちい刺激が来ます。このように、首の後ろにある神経を指によって指圧することで、筋肉をゆるめることができます。
腰方形筋をゆるめる
次に、肋骨と骨盤の間にある「腰方形筋」をゆるめるようにします。体の後ろ側にある筋肉で、首の後ろ、腰方形筋は、硬くなりやすい筋肉といえます。腰方形筋をゆるめ、腰回りを楽にし、神経や血管にねじれを起こしにくい姿勢を構築するようにしましょう。
具体的には、両手の親指を肋骨と骨盤の間に立てておきます。これによって、腰方形筋を皮膚の上から触ることができます。次に体を反らせて腰方形筋に圧をかけてください。これによって、腰方形筋が指圧され、老廃物や古くなった体液を押し流すことができます。体を後ろに反らせて、「いた気持ちいい刺激」があれば問題ありません。
指の当てる位置を変えたりすることで、硬くなってしまった部位を少しずつゆるめることができます。すると、背骨のずれによって起こっていた神経のつまりをなくすことができ、必要以上に体液が流れるのを防ぐことができます。このように、背骨に関係する筋肉の中で、特に硬くなりやすい「首の後ろ」と「腰方形筋」をゆるめるようにしましょう。
以上の内容をまとめます。筋肉が凝る、痛む、不調になるといった症状は「自己免疫疾患」から起こります。自己免疫疾患を抑えなければ、たとえ肩甲骨・股関節をゆるめたとしても、スポーツ技術低下、怪我の発症につながる危険があります。
これらを抑えるためには、首の後ろ、腰方形筋をゆるめるようにします。それによって、背骨のずれがなくなり、結果として、体液が過剰に流れすぎる反応を抑えることにつながります。
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