弓道の世界にしかない、ランニングに使える肩甲骨の効果的な活用法

今回は、弓道の姿勢に基づき、「楽に腕が振れる肩甲骨の使いかた」について解説していきます。

よく、ランニングで「肩甲骨を使って腕を振りましょう」といわれることがあります。ネットの情報を見ると、肩甲骨を動かす体操などがあり、効果的な腕振りの仕方で「肩甲骨」を使われます。なぜなら、肩甲骨を使って腕を振ると、体幹部にその運動を伝えやすいからです。

ただ、首の後ろを伸ばし、踵を最大限に活かせば、適切な腕振りの仕方がわかります。姿勢の伸ばして走ることで、肩甲骨付近の筋肉を無理なく効果的に活用できます。反対に、肩甲骨という言葉を真に受けて肩甲骨を意識しすぎて腕を振ると無駄な疲労につながる可能性があります。

以下の動画では、肩甲骨の正しい働かせ方を動きで見せながら解説しています。

 

首を伸ばして、前に出れば肩甲骨は自然と動く

では、やるべきことを先に話します。結論から言うと、

・首の後ろを伸ばし、両肩を下げて走る

・腕は何も考えずに任せるようにする

の2つだけを意識してください。

首を伸ばして肩を落とします。その状態で、首をななめ上方に伸ばすようにして、体を前に倒して走ってください。そうすると、脚が出たと同時に自然と背中の肩甲骨が動きます。この動きに任せてください。首の後ろを斜め上方に伸ばし続けていれば、肩甲骨や肩は勝手に動いてくれます。

走ってる最中に、自分の姿勢を適切な状態に保つために、肩や肩甲骨が動きます。そこで、腕振りは、推進力を上げるためのものだけではなく、自分の姿勢を保つためと考えるようにしましょう。

なぜなら、本当に肩甲骨から動かそうとすると、かえって無駄に疲労したり、スピードが落ちたりするからです。

本当に肩甲骨を寄せて動かすと、腕周りを逆に緊張させる

よく、肩甲骨を使い方の説明で「肩甲骨同士を寄せるようにして振りましょう」といわれます。これを行うと、腕が後方まで動くため、大きく振っているように感じます。この動きは、逆に走りのパフォーマンスを低下させます。

肩甲骨を寄せると、肩の回転機能の柔軟性を失います。肩甲骨を寄せると、私たちの肺が後ろから圧迫固定されるからです。実際、肩甲骨を寄せると胸が前に出ます。腕自体を後ろに引きやすくはなりますが、内臓に無駄な圧迫や緊張がかかってしまいます。

この腕ふりで3分間続けると腕がすごく疲れます。肩甲骨を意識して動かすと、逆に肩や腕が疲労困憊になります。こういった無駄な力みが練習によって怪我につながることがあります。

かつての私は、走っているときのこういった腕の振り方をしていました。確かに、胸や肩周りは使っているように感じますが、上半身が疲れてしまい、息が上がる時も早かったです。そのため、走る上ではあまり役に立たないことに気づきました。

肩甲骨を寄せ、肩を横に動かしたり上に動かしたりすると、余計に動かなくなります。逆に肩甲骨を開くようにして、少し姿勢を前にかがみ気味にした状態で肩を動かすと、動かしやすいことがわかります。

肩甲骨周りの柔軟性が高くても、肩甲骨を寄せてはいけない

ただ、このようなことをお話しすると、「もし、肩甲骨周りの筋肉が柔らかければ、寄せて腕を振っても問題はないのでは?」と思うかもしれません。このような場合であっても、肩甲骨を寄せてはいけません。肩甲骨を寄せる働きは、胸部を前方に突き出しやすくなり、首の後ろの筋肉が縮みやすいからです。

肩甲骨周りには背骨から肩甲骨にかけて生えている「菱形筋(りょうけいきん)」、首から肩にかけて生えている「僧帽筋(そうぼうきん)」があります。これらの筋肉は肩甲骨を寄せることで張ります。これらの筋肉が張ることで、腕を後ろに引き付けやすくなります。

しかし、これら二つの筋肉が硬くなることで、背骨周りの筋肉の余計な張りにつながります。さらに、二つの筋肉が張ることで、首の後ろの筋肉が縮み、姿勢が崩れます。

首の後ろが縮むと、上体の崩れ、感情の動揺、無駄な心拍数の増加などを起こします。つまり、姿勢が崩れやすく、呼吸しずらく、焦りやすい状態になってしまうのです。1時間以上走ると二つの筋肉に早く疲労が積み重なり、肩甲骨周りの筋肉に強く凝りが出ます。すると、腕振りが満足にできなくなるのです。

できるだけ、長く行い、走るための推進力を向上させるためには、背中の筋肉を疲労させないようにすることが大切です。

肩甲骨を寄せても、いまいち推進力になり切れない

あるいは、肩甲骨を寄せて振っても、いまいち走る動作に生かしきれません。

例えば、肩甲骨を寄せて腕を振ると、腕が降りやすいですが、体は前方に動きません。一方、首の後ろを伸ばして両肩を下げて腕を振ると、軽く腕を動かすだけで、身体全体が前方に動きます。首の後ろを伸ばした姿勢を取ると、身体全体を前に動かしやすくなり、楽に推進力を得られます。

つまり、「腕を効率よく振る方法」を学んでも、効率の良い走り方につながらない可能性があります。そのために、楽に速く走り続けるためには、腕より姿勢。「首の後ろを伸ばした姿勢」を維持し続けることが大切です。

実際に、腕振りの仕方について、マラソンの有名選手はこのようにこたえています。

・腕振りについては、個々の骨格があるので、その人のやりたいようにやればよい(小出監督(金メダリスト、高橋尚子選手の指導者))

・腕振りについてはスピードによって適した振り方が異なるのであまり考えすぎないほうが良い(ミズノランニングクラブ監督 福澤 潔)

適切な腕振りの方法を学んでも、結果的に肩や他の部位が緊張してスピード低下や無駄な疲労が起こる可能性があります。下手に肩甲骨を動かしすぎないように首の後ろを伸ばした姿勢を意識し、ランニングを行うようにしましょう。

スポーツ科学の世界では、「言葉に囚われる」ことが多いように思います。本当に自分の走り方に使えるものなのかを検討する癖を身につけましょう。「肩甲骨を寄せましょう」「股関節から脚を動かしましょう」など様々な教え方がありますが、本当にそうすると、身体の使い方を間違えます。

スポーツでは、力を発揮するために適切な姿勢が存在します。常識に囚われず、肩の緊張をなくすことを第一優先にして、まずは姿勢、そのあとに肩甲骨の動きがついてくると意識して走るようにしましょう。

公式LINE登録

 

有料チャンネル