首の付け根を下ろすと、運動パフォーマンスが2倍向上する根拠を解説

今回は「首の付け根を下げる姿勢」についての質問があったので、その回答をします。

質問の内容はこうです。

普段の大の字フルネス(全身を大きく伸ばす姿勢)では「胸を開き、首の付け根を下げよう」と解説しています。

この「首の付け根を下げる」という動作は、一体何をしているのか?なぜ体が動かしやすくなるのか?という疑問です。

要するに「胸を開いて首の付け根を下げることで、身体にどんな変化が起きて、どう動きが良くなるのか」を聞いているわけです。

この質問に回答します。

胸を開き、首の付け根を下げるとどうなるのか

胸を開くと肋骨が広がり、肺が膨らみやすくなります。

その状態で首の付け根を下げると、僧帽筋という肩まわりの筋肉が緩みます。

すると、首から肩にかけての力が抜け、体幹を上方へ伸ばしやすくなります。結果として呼吸が深くなり、重心が下に落ちて姿勢全体の安定感が増すのです。

初心者の方は、鏡の前で「胸を大きく開き、そのあと首の後ろをストンと下げる」ように試してみてください。すると、背中から腰にかけてが自然に伸びた感覚を得られます。

一般的な筋肉の動きと弓道姿勢の違い

通常、体を動かすときは「頭で考える→背骨に伝わる→末端の筋肉が動く」という順序で神経信号が流れます。

の理科でも習う仕組みですね。しかし首の付け根を下げると、この流れが頭から下に降りるように感じられるのです。結果、体を固定する感覚が減り、動き出しがスムーズになります。

この違いを生み出すポイントは二つあります。

それが「太陽神経叢」と「脳幹」です。

両方とも体の動きをよくするために重要な部位です。

太陽神経叢によって体幹の動きが良くなる

太陽神経叢とは、横隔膜の裏側にある自律神経の中枢で、内臓や横隔膜の働きを調整しています。位置としてはみぞおちの奥、横隔膜のすぐ後ろです。

この神経が活性化すると、呼吸が深まり、体幹を中心とした動きがスムーズになります。

具体的には「突き」や「体幹をひねる」など、体の中心から動かす動作がしやすくなります。

試しに、首の付け根を下げて太陽神経叢を活性化させた状態で、空手の突きのように腕を前に出してみてください。

普通の姿勢よりも腕が速く出せることに気づくはずです。さらに、腕の力を抜けば抜くほど、横隔膜の裏側をしっかり使えるようになり、より速く、より強く体を動かせます。

注意点として、腕の付け根を固めてしまうと逆効果です。むしろ緩めることで横隔膜の裏側が使いやすくなり、太陽神経叢の働きが高まります。

なぜ太陽神経叢が動きのキレを生むのか

神経学的に見ると、太陽神経叢が活性化すると「体幹から四肢への連動性」が高まります。つまり、脳から末端の筋肉に直接命令を送るのではなく、体幹を経由して動かせるため、力が全身に分散されやすいのです。そのため、動きが速く、キレがある状態になります。

実際、スポーツ科学の研究でも「腹部の神経叢と呼吸筋の協調が高いと、運動パフォーマンスが向上する」という報告があります。

結論として、首の付け根を下げ、横隔膜裏側を緩めると、太陽神経叢が活性化され、体の動きのキレが良くなるといえます。

脳幹によって体の反応が速くなる

次に大事なのは「脳幹」です。脳幹とは、交感神経と副交感神経の切り替えを行う部位で、体の緊張とリラックスを調整します。

首の付け根を下げると、この脳幹の圧迫が取れ、体の余分な緊張がほぐれます。完全に緩むのではなく、適度な緊張が残るため、意識したときにすぐ体を動かせる状態になるのです。

例えば剣術の世界には「遠山の目付」という教えがあります。これは遠くを見るように視線を保つこと。実は、遠くを見ると眼球の緊張が緩み、脳幹の圧迫が取れるのです。その結果、気配を消すように、素早く動き出すことができます。

つまり、体を速く動かすには「反応速度」が鍵です。太陽神経叢が体幹のキレを生み、脳幹が動き出しの速さを作る。この二つが合わさることで、弓道や武道における瞬発的な動きが可能になります。

まとめ

今回の質問「胸を開き、首の付け根を下げると何が起きるのか」について整理すると、次のようになります。

  • 胸を開き、首の付け根を下げると呼吸が深まり、重心が安定する
  • 太陽神経叢が活性化し、体幹からの動きがスムーズになり、動きのキレが良くなる
  • 脳幹の圧迫が取れ、体の反応速度が上がる